なぜか生きづらいあなたへ。自分らしく生きるための「教養としてのACT」入門

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「なんだか生きづらい」「いつも漠然とした不安がある」「自分はダメだと責めてしまう」——現代を生きる私たちの多くが、こうしたストレスや自己否定感といった「心の重荷」を抱えています。

この重荷を軽くしようと、私たちはつい「ネガティブな感情をなくそう」「不安な考えをコントロールしよう」と考えます。しかし、そうすればするほど、かえって感情や思考にとらわれ、苦しみは増すばかりです。

もし、感情を無理に消し去るのではなく、”苦しみと上手に付き合う方法”があるとしたら?

今回は、新しい「心の教養」として、ACTアクト(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)をご紹介します。

ACTは、つらい感情を抱えながらも、自分にとって本当に価値ある人生に向かって歩みを進めるための「心のしなやかさ」を私たちに与えてくれます。

目次

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは?

ACTは、その名の通り、2つの重要な要素を核とした心理学のアプローチです。

  • アクセプタンス(受容)
    不安や悲しみなどのネガティブな感情や思考を無理に排除しようとせず、あるがままに受け容れること
  • コミットメント(実行)
    自分にとって本当に大切な「価値」を見つけ、それに向かって具体的な行動を起こすこと

つまり、ACTとは

自分の力ではコントロールできない思考や感情をあるがままに受け容れ(Acceptance)、人生をより豊かにするための行動を自らの意志で選び、実行していく(Commitment)ための知恵

といえます。

私たちはつい不安やイライラといったネガティブな感情を「悪いもの」「取り除くべきもの」と捉え、懸命に消し去ろうとしてしまいがちです。しかしACTでは、その前提を覆します。

  • 従来の考え方:ネガティブな感情は「悪」であり、コントロールして消し去らなければならない
  • ACTの考え方:ネガティブな感情は何かを教えてくれる「信号」であり、問題は感情そのものではなく、それに抵抗して戦おうとすることにある

ここで重要なのは、ACTが目指すのは不快な感情をなくすことではない、という点です。むしろ、不快な感情や思考を抱えながらも「自分の価値に沿った、より豊かな人生を築く」ことを目的としています。

これを達成するためにACTが育もうとするのが、次に説明する心のしなやかさ(心理的柔軟性)です。

なぜ今、ACTなのか?変化の時代に求められる「心のしなやかさ」

ACTはもともと心理療法として生まれました。このアプローチは「これからどう生きたらいいのだろう」「なんとなく生きるのがつらい」といった、現代を生きる私たちの悩みに深く寄り添ってくれます。

VUCAブーカという言葉をご存知でしょうか。これは、現代が不安定(Volatility)、不確実(Uncertainty)、複雑(Complexity)、曖昧(Ambiguity)な時代であることを示す言葉です。計画通りにいかないこと、予期せぬ出来事が当たり前になった今、従来のやり方に縛られていては、心のバランスを保つのが難しくなります。

このような予測不能な時代に求められるのは、鋼のように硬い心ではありません。むしろ、困難な状況に対して「しなやかに適応できる心」が求められています。これこそが、ACTが目指す心理的柔軟性(Psychological flexibility)なのです。

「心理的柔軟性」を分かりやすく一言で表すと、次のようになります。

  • 心理的柔軟性:今を感じて、心を開いて、自分らしく生きる力

具体的には、つらい感情や不安を無理に押さえつけようとするのではなく、それらを人生の一部としてあるがままに受け止めながら、自分にとって本当に大切な「価値」に向かって行動する「心のしなやかさ」を意味します。

避けられない苦しみから目をそらすのではなく、それと共に歩みながら、自分の人生の舵を取り続ける。このような心の在り方を目指すACTは、今の時代を自分らしく生き抜くための「心の教養」といえるのではないでしょうか。

心理的柔軟性の「6つのコアプロセス」

ACTの「心理的柔軟性」は、6つの主要な要素(コアプロセス)によって支えられています。

  • 「今、この瞬間」との接触
  • 脱フュージョン
  • アクセプタンス
  • 文脈としての自己
  • 価値
  • コミットされた行為

それぞれを簡単にご説明していきます。

①「今、この瞬間」との接触(今起きていることを意識する)

私たちの心は、過去の後悔や未来への不安にとらわれ、つい「今」から離れてしまいがちです。『今、この瞬間』との接触(Contacting the present moment)とは、さまよう意識を「今、ここ」に優しく引き戻すことです。「マインドフルネス」とも呼ばれ、コーヒーの香りを味わう、キーボードを打つ指先に気づくなど、五感を使って現在の体験に注意を向けることを指します。

②脱フュージョン(自分と思考を切り離す)

「自分はダメだ」といったつらい思考に飲み込まれ、まるでそれが自分自身であるかのように感じてしまう状態から、一歩下がって客観的に眺めるのが脱フュージョン(Defusion)です。たとえば、「『私はダメだ』という考えが頭に浮かんでいるな」と気づくだけで、思考を自分と切り離し、心の現象として観察できます。これにより、思考に振り回されない心の在り方を取り戻します。

③アクセプタンス(ネガティブな感情を受け容れる)

不安や悲しみといった不快な感情は、無理に消そうとすると、かえって強まるものです。アクセプタンス(Acceptance)とは、そうした感情と戦うのをやめ、「今はここにいてもいいよ」と心の中にその存在を認めてあげることです。感情との無益な抵抗を手放すことで心の消耗を防ぎ、穏やかに自分と向き合えるようになります。

④文脈としての自己(自分を客観視する)

私たちの心(マインド)には、思考や感情を生み出す「考える自分」と、それを静かに「観察している自分」がいます。文脈としての自己(Self-as-context)とは、後者の「観察している自分」の視点に立つことです。これはバスの運転手のように、騒がしい乗客(思考や感情)に振り回されず、全体を静かに眺めている感覚であり、心の中に穏やかな安全地帯を保つことにつながります。

⑤価値(自分の大切なものを知る)

価値(Values)は、人生において「本当に大切にしたいことは何か」を指し示す、自分だけのコンパスです。「目標」が山頂のようなゴールだとすれば、「価値」は「東へ進む」といった方角そのもの。「人との繋がりを大切にする」「誠実でありたい」といった、自分がどうありたいかという姿勢を指します。このコンパスがあれば、日々の選択に迷ったときも、進むべき方向を見失うことはありません。

⑥コミットされた行為(価値に基づいて行動する)

「価値」というコンパスが示す方角へ実際に行動を起こすこと、それがコミットされた行為(Committed action)です。たとえ不安や気まずさを感じても、「人との繋がりを大切にしたい」から挨拶をする、「学び続けたい」から質問するなど、自分の価値に沿った行動を選択します。この小さな一歩の積み重ねが、自分らしい充実した人生を築く力になります。

ACTのヘキサフレックス

これまで見てきた6つのコアプロセスは、それぞれが独立して存在するのではなく、互いに深く結びついています。

この6つの要素の関係性を、ひと目で分かりやすく示したものがACTのヘキサフレックスと呼ばれる六角形のモデルです。

ACTのヘキサフレックス

この図が示すように、6つのプロセスはすべて、ACTの最終的なゴールである「心理的柔軟性」を高めるためにあります。

ACTでは、これらのスキルを状況に応じて使いこなすことをヘキサフレックスをダンスすると表現することがあります。これは、決まった順番通りではなく、まるでダンスのステップを踏むように、その時々の心の状態に合わせて必要なスキルをしなやかに使い分ける、というイメージです。

6つのスキルを柔軟に使いこなせるようになるほど心理的柔軟性は高まり、それがどんな状況でも自分らしく、価値ある人生を歩む力となるのです。

まとめ:ACTで「自分らしい人生」のハンドルを握る

ACTは、人生の苦しみや痛みを魔法のように消し去るテクニックではありません。避けられない困難と共に歩みながら、自分らしい豊かな人生を築くための、しなやかな「心の知恵」です。

人生を一台のバスに喩えるなら、運転手はあなた自身です。 不安や自己否定といった騒がしい「乗客」(思考や感情)を無理に降ろそうと格闘し、心身ともに疲れ果てているかもしれません。

日々の生活では、不安や自己否定といった騒がしい乗客(思考や感情)が次々と乗り込んできます。これまでの私たちは、彼らをバスから無理やり降ろそうとして、心身ともに疲れ果てていたのかもしれません。

ACTは、彼らとの新しい付き合い方を教えてくれます。乗客を追い出そうとするのではなく、「そういう乗客もいるな」と静かに眺め、彼らのための居場所をそっと用意してあげるのです。大切なのは、あなたが運転手であり続けることです。

自分の「価値」というコンパスで進むべき方向を確かめ、そちらへ向かってしっかりとハンドルを握り続ける。たとえ少しずつでもバスを進めていくことが、ACTが目指す「自分らしい人生」の生き方なのです。

参考文献

上の『よくわかるACT』の第2版が出ました。これから購入される方は、以下の2冊をオススメします(旧版の6割以上が新しい内容にアップデートされているそうです)。

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