「対話」による新しい関係性の作り方 |『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』宇田川元一

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仕事での悩みは大きく2つに分けられます。それは、自分の能力不足による悩みと、人間関係に関する悩みです。

自分の能力の悩みは、スキルを向上させたり、経験を積んだりすることで解決できます。しかし、人間関係の悩みはそう簡単には解決できません。一体なぜでしょうか?

それは、他者との関係は一方通行では築けないからです。相手には相手なりの考えや感情があり、そして「解釈の枠組み(ナラティヴ)」を持っているからです。

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』の著者、宇田川元一氏は、人と人の「わかりあえなさ」を前提に、それでも関係を築くための方法を提案しています。

人と働くことの難しさと可能性の両方に光を当てている本書は、あなたと誰かの関係性を見直すヒントを与えてくれることでしょう。

目次

『他者と働く』の情報

  • 著者:宇田川元一
  • 出版社:NewsPicksパブリッシング
  • 出版月:2019年10月
  • 単行本:200ページ

Source:NewsPicksパブリッシング

まいたぬき

本書の前半は、主に「適応課題」と「対話」について説明されており、後半は「ナラティヴ」と「組織論」について書かれています。特に後半は、著者の宇田川氏の熱いメッセージが伝わってくる内容となっています。

「私とそれ」の関係、「私とあなた」の関係

哲学者のマルティン・ブーバーは、人間同士の関係性を次の2つに分類しました。

  • 「私とそれ」の関係性
  • 「私とあなた」の関係性

「私とそれ」の関係性は、相手が自分と同じ人間であるにもかかわらず、道具のように扱ってしまう関係のことです。

たとえば、仕事で成果を上げるために、同僚を自分の都合の良いように利用したり、恋愛において、自分の寂しさや不安を解消するために相手を利用したりするような場合が挙げられます。

このような関係では、相手のことを「自分の目的を達成するための道具」として捉えています。

これは「成人発達理論」における発達段階2の「道具主義的段階」の考え方とも似ています。

一方で、「私とあなた」の関係性は、相手を道具として扱うのではなく、代えの利かない固有の存在として対等に接する関係のことです。

これは、たとえ相手の考えが自分と違っていたとしても、「私が相手と同じ立場であったなら、同じように考えていたかもしれない」と認めて、自分の中に相手を見出す(または、相手の中に自分を見出す)ことができる関係性のことです。

自分の意見を脇に置いて、相手の立場になって考えることは、誰でも簡単にできるわけではありません。このような人間同士の「わかりあえなさ」こそが、ビジネスの現場で問題解決を難しくする要因の一つなのです。

「技術的問題」と「適応課題」の違い

ハーバード・ケネディ・スクールでリーダーシップ論の教鞭をとるロナルド・ハイフェッツ氏は、問題状況の性質について、以下の2つがあると述べています。

  • 技術的問題(technical problem)
  • 適応課題(adaptive challenge)

技術的課題とは、既存の方法で解決できる問題のことです。問題や解決方法が明確であり、知識や技術が揃っていれば解決可能な場合がほとんどです。

一方で適応課題は、既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題のことです。解決方法はもとより、問題自体が明確ではないため、これらを対処するには自分たちの「物事の捉え方」や「関係性」を見直す必要があります。

本書では、この「適応課題」を解決するための方法として対話に焦点を当てています。

「ナラティヴ」と「対話」

著者の宇田川氏は、「対話」を新しい関係性を構築することと説明しています。

「適応課題」は、どれも「人と人、組織と組織の「関係性」の中で生じている問題」です(P.26)。そして、これらの問題は、相手と「私とそれ」の関係性を構築している場合に多く見られます。

「私とそれ」の関係性から、「私とあなた」の関係性へ移行するためには、相手を変えようとするのではなく、まずは自分から変わる必要があります。

そのための第一歩として、相手のナラティヴ(narrative)=物語、解釈の枠組みを理解する必要があります。

(前略)「ナラティヴ(narrative)」とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。物語といっても、いわゆる起承転結のストーリーとは少し違います。

ナラティヴは、私たちがビジネスをする上では、「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいた解釈が典型的かもしれません。

宇田川元一『他者と働く』P.32

つまり、「ナラティヴ」とは「その人にとって当たり前の考え方や解釈の仕方」と言えます。

たとえば、職場の全員が「仕事は大変なものだ」と思っているとしたら、その考えは職場共通の「ナラティヴ」となります。しかし、ある人が「仕事は自分の夢を実現するための手段だ」と考えている場合、その人の「ナラティヴ」は他の人とは異なることになります。

この「ナラティヴ」の違いを理解せずに仕事を進めると、その人との関係性を築くことが難しくなるかもしれません。

そのため、まずは自分と相手のナラティヴに溝(=適応課題)を見つけることが重要です。そして、そこに橋(=新しい関係性)を架けていくことが「対話」のプロセスなのです。

対話の4つのプロセス

本書では、適応課題を解決するための「対話」のプロセスを、以下の4つに分けて説明しています。

  1. 準備「溝に気づく」
    相手と自分のナラティヴに溝(適応課題)があることに気づく
  2. 観察「溝の向こうを眺める」
    相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティヴを探る
  3. 解釈「溝を渡り橋を設計する」
    溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る
  4. 介入「溝に橋を架ける」
    実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く

準備段階では、技術的問題だと捉えていた状況を適応課題であると捉え直し、観察により情報を収集して、何が問題であるかをはっきりさせていきます。

そして、解釈により問題がはっきりしたら、再び技術的問題に落とし込み、実際に行動を起こして(介入)、新しい関係性を築いていきます。

この4つのプロセス(準備—観察—解釈—介入)を繰り返し行うことで、組織にしっかりと橋が架かり、より困難に強い組織へと成長していくのです。

『他者と働く 』の次に読みたい本

本書『他者と働く』では、「ナラティヴ」という「解釈の枠組み」の違いによって生じる適応課題について、「対話」を通して解決していく方法が説明されています。

認知科学者・今井むつみ氏の著書「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?では、人間同士の「わかりあえなさ」を認知科学の「スキーマ(=知識や思考の枠組み)」という考え方で説明しています。

認知科学的なアプローチに興味のある方は、ぜひ手に取って読んでみてください。

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