人間社会では、「なぜこの人とはこんなにも考え方が違うのだろう?」と感じることが誰にでもあると思います。このような悩みに対して、意外な視点からアプローチするのが「類人猿分類」という考え方です。
「類人猿分類」では、人の性格をオランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボの4つのタイプに分けて考えます。一見シンプルなこの性格診断は、自己理解を深めるだけでなく、他者との相互理解を深め、より良いコミュニケーションを築く実践的なツールとなり得ます。
“人間社会”という森の中で共生する私たちの関係を豊かにする知恵の一つとして、今回は「類人猿分類」の考え方についてご紹介します。
『類人猿分類公式マニュアル2.0』の情報

- 著者:Team GATHER Project
- 出版社:夜間飛行
- 刊行日:2015年9月11日
- 単行本:216ページ
Source:類人猿分類公式サイト

「GATHER」という名前は、”Great Apes Teach Human Eternal Relationships”(類人猿が人間関係を教えてくれる)の頭文字をとったものです。
類人猿分類とは
本書で紹介されている類人猿分類「GATHER」は、人の性格をオランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボの4タイプに分けて考える性格分類法の一つです。
類人猿分類は、精神科医の名越康文氏が監修し、「Team GATHER Project」によって体系化されました。
広島県、岡山県を中心に展開しているスーパーマーケット「エブリイ」で有名なエブリイグループ(株式会社エブリイホーミイホールディングス)の人事研修にも導入されており、従業員の個性を活かす人事ツールとして話題になりました1。
類人猿分類では、人の性格を次の4タイプに分類します。
- オランウータンタイプ
職人気質のこだわり屋。キーワードは「納得」 - ゴリラタイプ
平和主義の安定志向。キーワードは「調和」 - チンパンジータイプ
勝ち負け重視で社交的。キーワードは「勝利」 - ボノボタイプ
感情豊かなムードメーカー。キーワードは「共感」
「自分はどのタイプだろう?」と気になった方は、次の2つの観点から自分に合うものを選ぶことで、自分がどのタイプかを知ることができます。
- 自分の感情を表に出して表現するか、表に出さないか?
- 人生において大切にしていることは何か?
この2つの質問と回答をまとめた図がこちらです。


本書によると、この簡易診断の的中率は「6~7割程度」だそうです(本書P.33)。
類人猿分類公式サイトには、複数の質問に回答して類人猿タイプを分類する診断テストもあるので、気になる方は試してみてください。
人間社会という森に住んでいる私たち
簡易診断の結果はいかがでしたでしょうか? ちなみに、私は「オランウータン」でした。
このように、簡単なテストを通して、自分や他者の性格タイプを知ることができます。
しかし、「このような診断で人間の性格が分類できるはずがない」と考える方もいると思います。実は、私もその一人です(オランウータンタイプなので、自分で納得できるまで時間がかかるのです……)。
この点について、本書には次のように書かれています。
いまの時点では、自分の診断結果に納得がいっている人も「一応、○○タイプになったけど、ちょっと違う気がする……」という人もいるでしょう。もちろん、細かい違いを見ていけば、人間のタイプがたった4つに分類できるわけはありません。しかし、そういう多種多様な人間の性格をあえて4つに分類するからこそ、他人を理解し、わかりあうための道が開けるのです。
私たちは、他人が自分とは異なるものの見方や感じ方をすることは知っています。しかし、自分と他人の感受性がどのように違うのか、ということについては、ほとんど何も知らないに等しいのです。それを知るための最適のツールが、類人猿分類です。
Team GATHER Project『類人猿分類公式マニュアル2.0』P.32
人間の性格は千差万別です。そのため、実際はたった4つのタイプに分けることは不可能です。
しかし、「世の中には、自分と異なる考え方をする人がいる」ということを理解する上では、4つに分類するだけでも十分といえます。
リアルな類人猿の世界では、4種(オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボ)がお互いに交流することはないそうです2。一方で、人間社会では様々なタイプの人が共に生活しています。
つまり、「まったく異なる4つのタイプが、1つの社会という森に住んでいる」(本書P.69)と理解することが、人間社会で他者との円滑なコミュニケーションを行うために重要なポイントとなります。
類人猿分類はあくまでも”相互理解を促すツール”
ここまで、類人猿分類が人間の性格タイプを知る方法として用いられていることを見てきました。
そこで気になるのは、人間の性格タイプを類人猿の生態に基づいて分類することに、科学的な根拠があるのかという点です。結論としては、現時点では科学的な根拠は乏しいと考えられます。
たしかに、人間と類人猿は遠い昔に共通の祖先をもち、DNAも97%以上が一致しています。
しかし、進化の過程を考えると、人間と類人猿は遺伝子的には「近い親戚」と言えるものの、類人猿が人間の「先祖」であるわけではありません。両者は「共通の祖先」から枝分かれして、それぞれが異なる進化の道を歩んできたのです。
東京大学出版会の『進化と人間行動 第2版』には、ヒト(人間)とチンパンジー(類人猿)の関係について、次のように書かれています。
(前略)生物進化の道筋において、今からおよそ600~700万年前までは、ヒトの系統とチンパンジーの系統とは共通だったのですが、その頃に、この二つの系統の動物は異なる道を歩み始めたということになります。ですから、現在のチンパンジーはヒトの祖先と同じ動物ではありませんし、チンパンジーが進化すればヒトになるということもありません。ヒトとチンパンジーの系統が分岐してから、それぞれお互いに別の道を歩んだ分だけ、お互いが変化したからです。
長谷川寿一、長谷川眞理子、大槻久『進化と人間行動 第2版』P.101
つまり、現在の類人猿の生態が、遺伝子的に人間の性格に反映されているという考え方には、十分な科学的根拠はないと考えられます。
誤解が生じないために述べておくと、そもそも本書においても、類人猿の生態と人間の性格タイプの間に科学的根拠があることを主張しているわけではありません。
そのため、類人猿分類はあくまで「人間同士がお互いの理解を深めるためのツール」として、楽しみながら活用できるエンタメ的な性格分類法として用いるのがよいかと思います。


『類人猿分類公式マニュアル2.0』の次に読みたい本
私が「類人猿分類」を知ったきっかけは、職場の先輩が飲みの席で話してくれたことでした。
その後、先輩が『ゴリラの冷や汗』という本を貸してくれて興味を持ったことから『類人猿分類公式マニュアル2.0』を読むに至りました。
『ゴリラの冷や汗』は子ども向け絵本のように豊富なイラストと可愛らしいキャラクター(ウー太、ゴリ平、チー助、ボノちゃん)が登場し、類人猿分類の4タイプの行動と考え方をストーリー形式で眺めることができます。


また、人間と類人猿の科学的知見や進化論について知りたいという方は、以下の『進化と人間行動 第2版』を読むのがオススメです。


興味がある方は、ぜひ手に取って読んでみてください。
- 話題沸騰!「類人猿分類法」は何がすごいのか 広島の急成長スーパーを支える人事戦略とは | プレタポルテ | 東洋経済オンライン ↩︎
- 類人猿の4種が互いに交流することはなくとも、たとえば、チンパンジーの群れの中にも「感情を表に出さない」「保守・安定を望む」といったタイプがいると考えられるので、人間社会と同様に、類人猿社会にも多様性はあるように思います。 ↩︎