メタ認知は、日常生活や仕事において「自分がどのように考え、行動しているかを客観視すること」です。これを高めることで、他者とのコミュニケーションがスムーズになったり、問題解決能力が向上したりと、多くのメリットがあります。
しかし、メタ認知を高めるには具体的にどうしたらよいのでしょうか? そもそも「メタ認知」とは一体何なのか?
今回は、私自身の体験を通して「メタ認知」とは何かを考察していきます。認知科学的に正しいのかはわかりませんが、感覚的に「メタ認知」をとらえていただけたら幸いです。
「メタ認知」をメタ認知するとは?
認知科学者の今井むつみ氏の著書『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』では、メタ認知について次のように説明されています。
「メタ認知」という言葉は、マインドフルネスなどの分野でも使われることも多いため、最近では聞いたことのある方も多いと思います。平易にいうと、「自分自身の意思決定を客観視すること」です。
今井むつみ『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?』P.179
ここでの「意思決定」とは、たとえば「今日の夕食は何にしよう?」や「今週の休みはどこに出かけよう?」など、自分が選ぶべき選択肢の中から最適なものを選ぶことを指します。ビジネスシーンでは、チームの目標設定や予算計画の決定なども含まれます。

メタ認知は、次のような流れで発生すると私は考えています。
- きっかけ
他者や現象、自分の思考など、何らかのきっかけによって「心の動き」が生じる - 気づき
自分の「心の動き」に気づく - 言語化・理解
自分の「心の動き」を言語化し、理解する(メタ認知) - メタ認知の気づき
自分の「心の動き」を理解したことに気づく(メタ認知のメタ認知)
つまり、メタ認知とは自分の「心の動き」に気づき、それを理解することを指しますが、さらにそれを理解したことに気づくという「自己観察の深化」こそが、「メタ認知」をメタ認知することです。
「メタ認知」をメタ認知した体験談
ある日、私は友人の職場での出来事について話を聞きました。
友人はドラッグストアで働いています。休憩室で彼が作業をしていると、パートさん2人が別のパートさんの悪口を言っているのが聞こえてきました。
「私はあの人のことが嫌いだから、今後話しかけられても無視する。あなたもあの人とは話さないようにして」
この発言を聞いた彼は、「嫌いだから無視するなんて、小学生の発想だ」と思ったそうです。友人はその後の2人がどうなったのかは知らないようでしたが、彼女たちの考え方が幼稚に思えたようです。
たしに、自分が気に入らないからといって、相手を無視するというのは大人の対応とはいえません。小学生同士でありがちなことであり、ここからいじめのような状況に発展することも考えられます。
しかし、私はこの話を聞いて「50歩100歩ではないか」と感じました。
というのも、気に入らない同僚を無視しようとするパートさんも、それを小学生の発想だと非難する彼も、私には視野が狭い考え方ように思えたのです。
もちろん両者の考え方は異なっていますが、どちらも問題を解決しようとする視点が欠けていたのではないかと感じました。
もし自分が彼の立場だったら、無視するという発想に驚きつつも、「なぜそのような考えにいたったのか」「本当に相手だけに原因があるのか」など、その状況が生じた背景を考えたと思います。
そういう意味では、友人のこともパートさんのことも、私から見たら未熟に映りました。
少し長くなりましたが、ここからが本題です。
友人の話を聞いた夜、私はふと思いました。
「もしかして、私も視野が狭い考え方をしていたのではないか?」
というのも、自分のことは棚に上げて、パートさんを非難する友人のことを、少し稚拙だと感じていたところがあったからです。
「自分ならもっと広い視野で対応できる」「感情的に相手を非難したりしない」という思いが、私の中にあったのだと思います。
その結果として、友人とパートさんのことを「50歩100歩」だと評価しました。私は彼らよりも大人だという考え方が、自分の中にあったのです。
この経験を通じて、「自分もまだまだだな」と反省し、自分の傲慢さを恥じました。
そして、それと同時に「私はいま、メタ認知している!」と感じたのでした。
「他者を見る自分の視点に気づくこと」がメタ認知の第一歩
以上の話をまとめると、他者(パートさん)について話す他者(友人)を「50歩100歩だ」と評価した自分を「まだまだだ」と感じる自分(メタ)を認識したのです。
これが、私が「メタ認知」をメタ認知した体験です。
このことから、私はメタ認知の第一歩は、他者の行動や言葉に対して「自分がどう感じるのかに気づくこと」だと気づきました。つまり、自分の「心の動き」を意識することが大切なのです。
「人の振り見て我が振り直せ」ということわざがありますが、まさにこの言葉がメタ認知を高める本質を表していると思います。
まとめ
メタ認知は、しばしば「神の視点から自分を見つめること」に喩えられます。
しかし、私は「自分を外側から見る」というよりは、「自分の内側の変化に気づく」ことのほうが重要だと感じています。つまり、自分の状態を外側から俯瞰するというよりは、自分の「心の動き」を内側から観察するという感覚です。
これは、今井むつみ氏が言う「マインドフルネス」にも通じる部分かもしれません。自分の外に「自分を客観視する自分」を作り出すのではなく、内側に「自分を観察している自分」の存在に気づくことが大切です。
まずは「神の視点」ではなく、内在する「自分の視点」から他者や自分を理解することから、「メタ認知」は始まるのではないでしょうか。