オススメの「成人発達理論」入門書 |『なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』加藤洋平

本記事のリンクには広告が含まれています。

「あの人は、一体何を考えているんだろう?」

職場でこんな疑問を感じたことはありませんか?

たとえば、部下の考えが理解できなかったり、上司の意図が読めなかったり、同僚との会話がかみ合わなかったり。

実は、このような「わかり合えない」という状況が発生するのは、ある理由があります。それは「人によって物事の見方や考え方が異なる」というシンプルな事実です。

人は成長するにつれて、物事の見方を変化させていきます。その成長や発達の過程を明らかにするのが「成人発達理論」と呼ばれる分野です。

なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』は、成人発達理論の入門書として非常にオススメの一冊です。

本書を読むことで、

  • なぜ相手と考え方が違うのか
  • 相手を理解するにはどうすればよいか
  • 人はどのように成長していくのか

についてのヒントが得られます。

部下を持つ管理職の方はもちろん、人との関係に悩んでいる方や、人間の成長に関心のある方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。

目次

『なぜ部下とうまくいかないのか 』の情報

  • 著者:加藤洋平
  • 出版社:日本能率協会マネジメントセンター
  • 出版日:2016/03/24
  • 単行本:256ページ

Source:JMAM 日本能率協会マネジメントセンター

まいたぬき

本書は、部下の育成に悩んでいるサラリーマン(管理職)の「私」と、成人発達理論の専門家の「室積むろづみ」との対話形式で解説が進みます。私はサクサクと読み進めることができました。

成人発達理論とは

成人発達理論は人間の成長や発達過程のメカニズムを解明する学問であり、発達心理学の分野の一つです。

成人発達理論は人は大人になっても成長し続けるという考え方に基づいています。これは、人間は「知識」や「スキル」の獲得による成長だけではなく、その土台となる「知性」や「意識」も一生を通じて成長するという認識です。

一般的に、大人になると記憶力や計算力は若い頃に比べて低下していきます。たとえば、新しい情報をすぐに覚えることや、複雑な計算を素早く行うことは、年齢とともに少しずつ苦手になっていきます。

しかし、これは人間の知能のごく一部にすぎません。年齢を重ねることで得られる経験知や判断力、また他者への共感力や洞察力など、より高度で複雑な「人間性」とも呼べる能力は生涯にわたって発達していいます。

このような人間としての質的な成長(=器の大きさ、視野の拡大)について研究するのが成人発達理論です。

ロバート・キーガンの発達段階モデル

本書に登場するハーバード大学教育大学院教授のロバート・キーガン氏は、成長発達理論の専門家です。

キーガン氏は人間の成長過程について、以下のような5段階の発達段階モデルを提唱してます。

  • 発達段階1:具体的思考段階
    言語を獲得したての子供に見られる段階。基本的に全ての成人はこの段階は超えている
  • 発達段階2:道具主義的段階(利己的段階)
    成人人口の10パーセント。極めて自己中心的な認識の枠組みを持っている
  • 発達段階3:他者依存段階(慣習的段階)
    成人人口の70パーセント。組織や集団に従属し、他者に依存する形で意思決定をする
  • 発達段階4:自己主導段階(自己著述段階)
    成人人口の20パーセント。自分なりの価値観や意思決定基準を設けることができ、自律的に行動できる
  • 発達段階5:自己変容・相互発達段階
    成人人口の1パーセント未満。多様な価値観・意見などを汲み取りながら的確に意思決定ができる

それぞれの発達段階を見ると、人間の意識の成長とともに、物事の捉え方が「主観的」から「客観的」になっていることがわかります。

たとえば、発達段階2では自己中心的な視点で物事を考えていますが、発達段階3になると他者の視点を取り入れた考え方ができるようになります。つまり、段階2では「自分の欲求」に従って行動していたのが、段階3では「他者から見た自分」を意識するようになり、より社会的に行動できるようになるということです。

室積 (前略)、キーガンの主体・客体理論で大事な点は、意識の成長・発達が進めば進むほど、認識世界が広がっていき、これまで捉えることができなかったものが見えてくるようになる、ということです。

言い換えると、意識の成長・発達とは、客体化できる能力がどんどん高まることを指しており、結果として、認識できる世界が広がっていくということのなのです。

加藤洋平『なぜ部下とうまくいかないのか 』P.57

キーガン氏の発達段階モデルで重要なのが、これらの発達段階は順番に進んでいくということです。たとえば、発達段階3を飛ばして発達段階2から4に移行したり、発達段階3に到達後すぐに発達段階4に進むことはありません。

一般的な成人は、一つの発達段階を成長するのに少なくとも5年から10年、場合によってはそれ以上の時間が必要とされています。

人間の成長は一直線に起こるのではなく、ゆっくりと時間をかけて段階的に進んでいくことを示しています。

「水平的成長」と「垂直的成長」の違い

前述の通り、人間は「知識」や「スキル」を獲得することによって成長するだけでなく、その土台となる「知性」や「意識」も生涯を通じて成長し続けます。

この知識やスキルの獲得による成長を水平的成長、人間の意識の成長や認識の変化のことを垂直的成長と呼びます。

イメージとしては、コンピュータに新しいアプリをインストールすることが「水平的成長」であり、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)をアップデートすることが「垂直的成長」と考えられます。

たとえば、仕事において新しい知識やスキルを習得すると、自分の技術的な能力が向上します。しかし、相手の視点に立って考えたり、長期的な視点でプロジェクトを管理する役職に就くためには、OSのアップデートのように自分の意識を進化させることが必要です。

あらゆる分野の達人(プロフェッショナル)は、単に知識やスキルが豊富なだけでなく、こうした人間的な認識も成熟しているといえます。

『なぜ部下とうまくいかないのか 』の次に読みたい本

本書『なぜ部下とうまくいかないのか 』では、管理職(課長)である「私」が、部下育成や組織マネジメントの課題に対して、成人発達理論からヒントを得るという構成になっています。

組織が抱える課題には、技術的問題適応課題の2種類があります。

「技術的問題」は既存の方法で解決できる問題のことであり、知識や技術を習得することで解決が可能です。一方で「適応課題」は既存の方法では解決できない複雑な問題のことであり、これを解決するには技術的にでなく、人間的なアプローチが必要となります。

経営学者の宇田川元一氏の著書他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論では、そのアプローチの一つとして対話を取り上げており、組織内でのわかり合えない相手との関わり方が丁寧に解説されています。

成人発達理論と関連が深い「他者との関わり方」を学びたい方は、ぜひ手に取って読んでみてください。

よかったらシェアお願いします!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次